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第18回 移民難民スタディーズ公開研究会 報告

第18回移民難民スタディーズ公開研究会 報告

「パンデミック時における移民の社会保護: 東京のフィリピン人移民女性の経験とディスコース」

2022年7月28日(木)13:00~14:30
公開研究会(ハイブリッド開催)逐次通訳つき
報告者:ジョセリン?O?セレロ(フィリピン大学ディリマン校アジアセンター)

報告概要

1.はじめに

日本のフィリピン人は、国内では4番目に多い国籍集団であり、在留外国人全体の約10%(282,798人)を占める(法務省、2019年)。移住者の内訳は、農村部における結婚移住者、興行ビザ等による短期の出稼ぎ労働者、永住権保持者であり、居住地は特に関東(東京)に集中している。
報告者は、東京在住のフィリピン人移住女性へのインタビューを実施し、COVID-19パンデミック禍において、彼女たちがパンデミック初期に直面した経験と日本における社会的保護へのアクセスおよび国家が主導する社会的保護に対する意識について調査した。本報告は、移民およびジェンダーの観点からパンデミック禍の移民の社会的保護について分析を行い、パンデミックという危機状況において「脆弱な」移民女性と「エンパワメントされた」移民女性をプロファイリングした結果を報告するものである。

2.COVID-19パンデミックと日本における移民の社会的保護

COVID-19パンデミック禍の日本では、住民登録された者全員に対し一人当たり10万円を配布する特別定額給付金(2020年5月?9月)や、感染症拡大により特に大きな影響を受けた事業者や個人事業主を対象とする持続化給付金などの経済支援策が取られた。これらの一時的な経済支援策は外国人も給付対象となった。さらに、2021年5月からは、経済的困難に直面している世帯(外国人を含む)を対象に、返済期限を2年間とする無金利の緊急融資が実施された。

3.フィリピン人移住者の社会的保護に関する経験と言説

東京在住のフィリピン人移住女性(70名)へのフォーマル/インフォーマルインタビューとキーインフォーマントインタビュー(5名)、各種資料の分析より次のようなことが明らかになった。まず、東京に移住したフィリピン人女性の半数以上が、帰化よりも市民権?社会権を持つ永住権を希望していた。彼女たちは日本での滞在年数が長く(15?20年)、子育てや地域社会に溶け込むための言語的?文化的資源を獲得していた。また、フィリピン人移住女性の日本における社会経済的地位は幅広く、経営者、正規雇用者、生活保護者など属性は多様であった。彼女たちの多くは過去の受給経験などから、日本政府から十分な社会福祉が提供されていると感じていた。
COVID-19パンデミック禍では、東京在住のフィリピン人移民女性はエッセンシャルワークやケアワークに従事し、強い感染のリスクにさらされている者が少なくなかった。また、勤務先のレストラン?ホテル?工場などの閉店や閉鎖によって職を失うなど苦しい立場に置かれていた。このような窮地にある中で、エンパワーメントされていた女性には、①幅広い社会的セーフティーネット(オンライン?オフライン)を有している、②言語?文化的資源を蓄積している、③日本国内の地域コミュニティやフィリピン人移民コミュニティに積極的に関与しているという共通点があった。また、コロナ禍では、フィリピン人同士のソーシャルサポートも見られた。例えば、COVID関連情報の通訳と情報拡散、資金援助申請などのコミュニティ活動(オンライン?オフライン問わず)、苦境にあるフィリピン人や他の外国人に対する経済的、精神的、心理的支援、失職者に対するマスク?食糧の配給、ソーシャルディスタンスを置いた身体活動(ダンス等)の実施などである。
東京在住のフィリピン人移民女性の社会的保護に関する言説は、次の3つに特徴づけられる。1つ目は「移民は日本政府に負担をかけるべきではない」という言説である。これは、日本人が健康や生活に配慮して自立を守ろうとする行動を貫いていると考えられる。2つ目は「日本とフィリピンではパンデミックへの対応は異なる」という言説である。日本とフィリピンとでは政治および医療のシステムは異なるため、それがCOVIDへの対応の違いとなる。彼女たちは、日本人は従順であり法律を守るが、フィリピン人は情報不足であり、規制されなければならないと考えている。3つ目は「フィリピン政府は当てにならないが、フィリピンはフィリピン人を必要としている」というものである。彼女たちは母国フィリピンに対し、国境を超えた社会的支援の拡大が必要であると考えていた。

4.移民の社会的市民権、統合、および国境を超えた社会的保護について課題

パンデミック禍の東京のフィリピン人移住女性は、社会的包摂に向けた継続的な努力の一環として、さまざまな形態の社会的保護活動を通じて脆弱な同胞移住者を支援し、自己責任を推進する積極的な社会的市民(デニズン)の役割を担っていると言える。フィリピン系移民女性は、母国フィリピンとの感情的なつながりを維持しながら、同時に日本社会に溶け込むという特徴があるため、日本で利用可能な社会保護と資源をフィリピンの社会経済的代替手段と組み合わせることで、危機の影響と福祉のニーズを交渉することがよくある。COVID-19パンデミックは、日本におけるフィリピン人の移民統合についての長年の課題、すなわち、受け入れ社会における不平等な社会的市民権に起因する不平等という課題と、彼らが空間と時間を超えてアクセスし、維持される社会的保護のトランスナショナル性について再考察するための重要な文脈を提供している。

記録:相良好美

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